おかしな校則が話題になるけど、ぼくの通った小学校は使い捨てカイロが禁止だった。そんな校則のおかげで、全力でバカだったぼくらは、キンタマを触ってかじかんだ手に暖を取る「ホカロン」ならぬ「タマロン」を生み出した。タマロンは思いのほか温かかった。
タマキンがついてない女子が「不公平だタマロンを触らせろ!」と騒ぎ出して、ぼくらは休み時間の度にタマロンを差し出すこととなった。人気のない男子はタマロンでも女子に相手にされなかった。こうしてタマロンを求められる男子とそうでない者との間に格差が生まれた。
タマロンをしない真面目なヤツやヘタレもいたけれど、意外だったのは秀才キャラのシミズくんが参戦したことだった。シミズくんは秀才キャラのくせに好きな女の子にだけタマロンを使わせる分かり易い男だった。
ある日タマロンを強く握られたシミズくんが反射的に握った女子を突き飛ばした。好きだった女の子を突き飛ばしたのだ。倒れた子が運悪く机の角で怪我をしたため、タマロンの流行が教師たちに知られることとなった、もちろんすぐさま禁止された。
道徳の時間にぼくらはタマロン禁止の啓蒙ポスターを作らされた。どれくらいの期間だったかは忘れたが、教室の後ろにクラス全員が描いたタマロン禁止のポスターが掲示されていた。ぼくら以上に教師はもっとバカだった。
突き飛ばしの件で、シミズくんは好きだった女子と疎遠になった。冬になると、思い出す甘酸っぱい記憶だ。